南国

     

南国男の世界の裏側


我輩が南国で野良猫のご飯配りに励んでいる場所は3カ所ある。最終地点は、南国の下町的たたずまいに満ちた商店街にある路地裏だ。バイクも滅多に通らない、野良猫にとっては最も安全な地である。しかし、風通しが余りよくないのか、南国とは言え、ひときわ暑い。
 
★ナゾの建物
 
さて、この最終地点の横手に不思議な建物がある。建物自体は、ごくフツーの”ショップハウス”と呼ばれる2階建て小規模商業ビルなのだが、何が不思議かと言えば、営業内容が何なのかイマイチ謎なのである。
 
表向きは「スパ」もどきの看板を掲げ、南国らしいヤシの木のイラストもあるが、何だかヒミツっぽい。
 
しかも、この店はなぜか男性客しか出入りがない。店の横の路地でエサをあげていると、店の窓から風呂のような香りが漂ってくることもしばしばある。いくら年中暑い南国とは言え、フツーは街中で風呂の香りがすることはまずない。
 
店は1年365日、ほぼ休みなく夕方から深夜まで開店していて、連日男性客の出入りが途絶えることはない。複数の日本人男性たちが、声高に話しながら入店していったこともある。
 
とにかく、くだんの店は、男性専用スパかジムかと思っていたのだが、ある日、友人にあっさり言われた、「違うよ、以前は結構あった、いわゆるゲイクラブだよ」と。おおっ!
 
シンガポールにも、80年代頃まではゲイクラブがそれなりにあったようだが、取締りが厳しくなり、現在は目立たずに営業している店がいくつかあるようである。
 
エサやり場にあるこの店のオーナーはドイツ人男性で、ブロンドに青い目の優男タイプ! なで肩で歩き方もシャナリシャナリといった風情で、いかにも、である。
 
誤解のないように断っておくと、我輩はゲイの方々に偏見はないし、個人的嗜好は自由だと思っている。偏見と言うよりは、寧ろ好感を抱いていると言った方が適切かもしれない。彼らと接した経験上、優しい人が多いと感じるからである。
 
このドイツ人オーナー、毎夜エサやりに励む我輩には見向きもしないのだが、男性に対する態度は一変する。
 
ある晩、我輩のご飯配り中に、このドイツ人オーナーが店から出てきて、ちょうどその時オーナーの知り合いのインド系おじさんが通りかかった。ドイツ人オーナーは「あ〜ら、モハマドさ〜ん、お元気ぃ?  もうお仕事は終わったのぉ?」と、満面に笑みを浮かべつつ、おじさんに話しかけた。
 
挨拶ひとつ交わすどころか、微笑みかけても完璧にムシされている身としては、唖然としてドイツ人を凝視してしまった。
 
★優男激怒事件発生
 
我輩のご飯配り場所は公道だから、他にも野良猫にエサをあげる人々がいる。我輩にしてみれば、嬉しい限りのご同輩である。
 
ただ、困ったことに、猫が食べ残した残飯を片付けていく同輩は余りいない。道端に、猫マンマなり、キャットフードなりをドサッとじかに置く、または新聞紙に載せて置き、そのまま去っていくのである。
 
この行為は、猫嫌いな人々からの格好の批判材料となってしまう。ただでさえ、タバコの吸殻やゴミをポイ捨てすれば罰金対象となるお国柄だし、野良猫や野鳥にエサをあげる行為も、動物愛護精神に満ちてはいない都市国家では肩身が狭い。暑い南国ゆえ、放置された食べ物が傷むのも早い。
 
動物嫌いの面々から動物たちが攻撃されないよう、ご飯を配るからにはきちんと後片付けまですべき、というのが我輩の持論である。というわけで、営業内容不明のドイツ人オーナー店の脇も含め、 我輩はエサやり場周辺の簡単な掃除もしている。
 
ある晩いつもの如く、このフシギな店の脇で、誰かは知らぬが、我が同輩が置いて行った猫マンマの残飯片付けをしていた。すると、タイミングの悪いことに、たまたまドイツ人オーナーが店から出て来た。小道にかがみ込んで残飯を拾っていた我輩は、オーナーの気配に全然気づかなかった。
 
と突然、「お前、何やってんだ!」と怒鳴られた。ぎょっとしたものの、誤解するのも当然か、と思い直し、「誰かが置いていったエサを片付けているんざますよ」と答えた。
 
案の定、我輩の言葉を信じなかったオーナーは、「自分が置いたのでもないゴミを拾っていると言うのか? ウソこけ。だいたい、小汚い野良猫ごときにエサなど与えおって。保健所を呼んでやるからな!」と怒鳴りつけ、足早に去っていった。
 
「ちょっと、ちょっと……」とうろたえる我輩の言葉に、耳を貸してはもらえなかった。
 
★頼もしき友の登場
 
その晩は暗い気持ちで帰宅した。保健所を呼ぶということは、野良猫を捕獲し殺すことにほかならない。
 
善意で人んちの脇の掃除をしていた我輩が、どーして怒鳴られるのか。理不尽さに対する怒りを覚える一方で、何よりも猫の身を案じる気持ちが強く、途方に暮れてしまった。
 
思い余った我輩は、殿方の友人に助けを求めた。この友人も動物好きである。しかし、彼はゲイが苦手であることを知っているだけに、助けを乞うことに抵抗はあったが、背に腹は変えられぬ。
 
相談すると、予想以上に頼もしい反応が返ってきた。「よっしゃ、任しとき。おやすい御用さ。保健所なんかに連絡しないよう、紳士的に頼んでみるよ。キミは、店に迷惑をかけないよう掃除をしていただけだと説明する。丁寧に頼んでも、万一相手が強硬な態度に出たら、こっちにだって対抗手段はある」。
 
えっ、対抗手段って? 「どーしても野良猫を保健所に引き渡すと言われたら、こう言ってやるまでさ。『オタク、商売してますよね? どんな営業内容か、実態を当局に通告されたら、困るのはそちらですよね?』」。
 
う〜む、我が友人、なかなか賢いのう。その晩は、すっかり安心して床に就いた。
 
★いざ対決!
 
翌日の晩。我輩と合流した友人は、エサやり場の近くまでずっと作戦を練って、ベラベラ喋り続けていた。日ごろ、口数の少ない彼にしては、珍しく饒舌である。「いざとなれば頼もしい奴だなあ」とすっかり友を見直す我輩。そして待つこと1時間半‥‥。
 
やっと、ドイツ人オーナーが、前日の晩と同じく店から出てきた。南国らしい軽装である。「ほら、あいつじゃあ」と友人を促した。
 
と……なぜか我が友は震えていて、全然動かないのである。「何してんのっ! どんどん歩いていっちゃうじゃない。今つかまえないと、話す機会を逸しちゃう」と焦る我輩。
 
何と、我が友は、いざ対決の場面になって、足がすくんでしまったようなのである。
 
仕方なく、我輩が小走りにドイツ人を追いかけ、「あのう、すみませ〜ん」と大声で呼びかけた。その後ろから、我が友も遅ればせながら登場した。「あっ、どーも。ボクは○○です」と微笑みながら、握手を求める我が友。そして、120%困惑顔のドイツ人……。
 
一気にまくしたてる我が友に圧倒されたのか、ドイツ人はなぜか逃げ腰で、「電話? あら、しませんわよ。もういいから、もういいの」と意味不明な言葉をつぶやきながら、逃げるように半ば走るようにして去っていった。
 
後に残るは、ぽか〜んと口を開けたまま、立ちすくむマヌケ顔の我ら2人。「これで大丈夫さ。保健所なんかに電話しない、って言ってくれたし。昨夜はきっと、一時の気まぐれで、キミに八つ当たりしただけなのさ」と気を取り直したらしい友に促され、ともかく当日のエサやりを遂行した。
 
            ☆     ☆     ☆
 
幸い、最近はこのドイツ人オーナー以下、誰ともトラブルはない。もっとも、オーナー氏は我輩のことなぞ、完ぺきに忘れているようだ。今もたまに顔を合わせるが、全くムシされている。
 
考えてみれば、彼らとて、どことなく世間に気兼ねしている感がしなくもない。現に、その店に出入りする客たちはささっと入って、ささっと出ていくように感ずる。
 
南国の路地裏で展開される男の世界にも、様々な人間模様があるのだろう。そんな南国の人生劇を知ってか知らずか、野良猫たちは今日も夜の路地裏を闊歩している。
 
                
 
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 花畑 オトコには オトコのふんばり
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 芳純というバラと黒猫   (C)Naomy
 猫  「どーしてこのコラムに
     バラにゃの?!」
 管理人「………」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

孤独なれど 耐えれば光る 
       オトコ意気
  (C)Naomy
  それにしてもナイスショットにゃ?
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 おっ、ボクたち、本文とは全く関係
     ありまっしぇん。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 ん? これってバラ? ちゃうか…
  花って何でもおいしいにゃあ
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 左「兄チャン、行かにゃ〜で!」
 右「許せ!男の付き合いがあるにゃ」
  (エリマキネコと兄の愛ちゃん)
    (C)Naomy

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

    ガン飛ばすにゃって?
    こーゆー顔にゃんだよっ!

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
  
 右「シメはやっぱオレたちかい?」
 左「おうっ!」       (C)Naomy
       
 
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