おやじ

  

おやじの本当の姿


★はじめに
 
『南国路地裏猫物語』は、筆者のシンガポールでの実体験に基づく99%ノンフィクションである。もしかすると、日本や、動物愛護精神・動物権利意識が発達している国に住む方々からすると、「なんだ、そりゃ?」と思われる点があるかもしれない。
 
筆者の知る限り、アジアには人権意識さえ希薄な土地が少なくなく、そーゆー地域では動物の権利意識なぞまず望み薄であること(人間でさえ生きていくのがやっと、という国も多い)、シンガポールの野良猫は、近隣アジア諸国の同輩に比べれば、少なくとも栄養面ではまだ恵まれた環境にあること、こうした現地事情をご理解の上、楽しんでいただければ嬉しい。
 
★夜のお務め
 
我輩には夜のお務めがある。例え夜、友人と会うなど何らかの用事があっても、よほどのことがない限り、毎晩欠かさないお務めである。それは何かと言えば……野良猫のエ・サ・や・り! まっ、お品のある言い方をすると、ご・飯・配・り!
 
我輩が毎晩出没するのは、以前勤めていた会社があった地域で、庶民派おやじ人口も多い。中心街の外れに位置するその地域には、有名な大きいモスク(イスラム教寺院)があり、マレー系のレストランや店舗が軒を連ねる。商店主の多くは、マレー系おやじサンである。
 
イスラム教徒が圧倒的多数派を占めるマレー系には、宗教上の理由もあってか、猫好きな人が多い。一見恐そうに見えるおやじタイプであっても、その実優しい人も多く、野良猫にとっては住みやすい環境と言える。
 
とは言え、犬であれ猫であれ、野良稼業は過酷だ。その地域に通勤していた当時は、毎日昼となく夜となく野良猫にエサをバラまいていた。退職後も、相手が生き物なだけに、ご飯配りだけは止められず、結局数年経った今も続けている次第である。
 
南国でのご飯配りも、昔のショバを含めると、かれこれ15年目に入った。我輩が観察する限り、シンガポールの野良猫の大半は1年も生きられない。昨日まで元気だったのに今日は突然姿を消す、というケースは日常茶飯事だ。
 
せめて生きている間は、おいしいものをお腹いっぱい食べさせたい、その一心で毎晩お務めに励んでいる。
 
★子猫クロとの出会い
 
交通事故による瀕死の重傷や病気により衰弱した野良猫を保護、元気に回復出来た例もあるが、別れも数多く経験した。
 
数年前に出会った子猫のクロもその1匹である。まだその地域の会社に勤務中だったある日の昼間、かなり衰弱していた子猫を発見。夕方家に連れて帰ろうととりあえず保護したが、時既に遅く、夜を待たずして亡くなってしまった。
 
仕方がないので、遺体は小箱に入れ、オフィスの裏側の目立たない場所にこっそり置いておいた。夜が更けるのを待って、その地域の土のある一角に埋葬することにしたのである。
 
都会のシンガポールでは、土のある場所を見つけるのって一苦労だ。しかも規制が厳しく、個人が勝手に公有地に私物(ペットの死骸など)を埋葬する行為は禁じられている、と聞いた覚えもあった。
 
でも、野良だって生き物。生あるものが息を引き取ったのに、ごみ扱いにしてしまうのは余りにもしのびなく、夜遅くにそっと埋葬しようと思ったのである。その日はたまたま、友人と夕食を共にする約束があったので、友人と会った後、1人で埋葬するつもりだった。
 
夜半にオフィス近辺へ戻る我輩を訝しく思った友人に理由を聞かれ、しぶしぶクロと名づけた子猫を埋葬せざるを得なくなった経緯を告げた。友人は気持ちよくヘルプを申し出てくれて、結局2人で土を掘ることになった。
 
でも、オフィスにはシャベルやスコップの類が皆無で、道具と言えば大きなスプーンしかない。「2人で掘れば、スプーンだって大丈夫!」と友人に励まされ、スプーン片手に、せっせと墓穴を掘り始めることに相成った。
 
★無愛想おやじ登場
 
さて、その埋葬場所の近くには、華人おやじが経営する葬儀屋がある。他のマレー系やインド系の商店が午後6時頃閉店するのに対し、この葬儀屋だけは夜遅くまで店を開けていることが多い。おやじ連中が麻雀に興じる姿もよく見かける。
 
その葬儀屋には、ドサクサに紛れて野良猫のフリをし、我輩の猫エサを失敬する雑種犬・茶太郎もいる。(注:茶太郎っちゅう名前は、我輩が勝手に命名した日本名でござる。)
 
華人は概して、マレー系とは対照的に犬派が多く、猫を嫌う人が少なくないことを経験上知っていた我輩は、落ち着かない気持ちで穴を掘り始めた。ふと顔を上げると、何とその葬儀屋のおやじスタッフの1人が、我輩たち2人を凝視しているではないか!
 
そのおやじと言葉を交わしたことはなかったが、近所に勤務していたので、顔見知りではあった。一度も彼の笑顔を見たことはなく、無口そうでちょっぴりコワオモテの、典型的中国系おやじタイプである。
 
「どうしよう……。厳密には違法行為だろうし、怒られたら返す言葉もない。でも、遺体をごみ処理するのは余りにも不憫じゃ……」。大いにうろたえたが、もう後戻りは出来ない。知らん顔をして、ひたすら俯いたまま掘り続けることにした。
 
数分経っても、無愛想なおやじはじっと我輩たちを見ている様子。太っ腹の友人もさすがに不安そうで、申し訳なさがこみあげてくる。しばらくして、おやじが中国語方言の福建語で何やら話しかけてきた。もちろん、何を言っているのか、チンプンカンプンである。
 
「げっ、ついに来たかっ!」と観念して顔を上げると、おやじはシャベルを手にして仁王立ちしているではにゃ〜か。「コレ、使えよ」と言ってシャベルを差し出してくれたのだ。
 
驚いて、しどろもどろにお礼を言いながらシャベルを受け取り、再びせっせと掘り続けた。スプーンに比べると、断然早いっ! 無事、箱が埋葬できる程度の大きさの穴を掘り終え、クロの遺体を花と共に埋葬した。
 
シャベルを返す時、「本当にほんとにありがとっ!」と言ったら、おやじはテレくさそうに(日焼け顔がほんのり赤くなってエビ茶色になった)、「な〜あに、いいんだよ」と言ってチラリと笑ってくれた。初めて目にしたおやじの笑顔は、キラキラ★★お星さまのようだった……と書くとウソ臭くなるので、敢えて笑顔の形容は避けておこう。
 
あれから7年。心優しき無愛想おやじは今も、くだんの葬儀屋で元気に働いている。
 
                 
 
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「ちょっとちょっと、おやじって
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おやじ猫 おやじの優しさ 
力説し
 
 
 
 
 
  

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